フラットな機会とフラットな組織

社員が過ごしやすい環境として、類型的に語られる組織の形として「フラットな組織」というものがあります。

一部の管理職・役員を除いた従業員の中にできるだけ役職による上下関係を設けず、意思決定者(主に社長)と従業員の間の階層が少ない組織が「フラットな組織」と呼ばれるものだと思います。


従業員が意思決定者に対して直接意見を伝えやすいことや、そこから想起される「風通しの良い組織」というイメージが、おそらく従業員にこの言葉が好まれる理由かなと思います。


しかし個人的には、「フラットな組織」というものはそこまで万能でそこまで良いものか、懐疑的です。


欲しいのは「フラットな組織」ではなく「フラットな機会」

個人的には従業員間の上下関係が明確になることが嫌なわけではなく、「上下関係の序列に縛られて自分の力を発揮する場が制限されること」が嫌だと感じます。

ステレオタイプに語られる日本の旧来の組織像で言うと、年功序列で昇進した働かない年長の上司が優秀で勤勉な部下の上に立つだとか、上下関係の序列が多く上に意見を伝えるのに非常に骨が折れるなどの状態。


しかし、これは上下関係のある「フラットでない組織」が問題な訳ではなく、結果として「機会」が実力に応じて平等ではなくなっている状態が問題です。


例えば事業プランなどをどの立ち位置の社員でも提案できるような場を設けるとか(優秀であれば抜擢)、上司を飛び越して意見を伝えられるような場を定期的に設けるだとか、年齢・勤続年数によらずに実力で抜擢するだとか、機会が均等になる・・・やる気と意欲さえあればチャンスは平等にある・・・ような環境が、一般的には望ましい環境とみなされると思います。


欲しいのは「フラットな組織」ではなく「フラットな機会」なはずです。


フラットな組織はスケールしない

機会をフラットにするために、組織的にそもそも垣根を外して「フラットな組織」にするのも、社員数が少ない状態であれば効率的で効果的だと思います。

しかし組織の従業員が100人を超えるような状態になるとどうしてもコミュニケーションパスの限界に達してしまい、フラットな組織だと意思決定者が従業員のケアを十分に行う事が不可能になります。


目が届かなくなる以上、多くの従業員の仕事振りや成し遂げた成果などについても把握が難しくなり、結果として多くの従業員にとって「機会の不平等」をもたらす事になってしまいます。
がんばって成果を出した人間を見逃したり、逆に成果が十分に出せず勤労態度にも問題があるような人間でも目が届かないが故に見逃してしまうこともあります。


こういう状態を回避するために、中間管理職的な階層を設けてきめ細かく従業員を評価する方法が旧来から採用されてきている訳で、もちろんフラット/階層的、どちらの組織形態も課題は多い訳ですが、フラットな組織はスケールしないが故に社員が増えると「フラットな機会」を失うケースが増えます。


フラットな組織は意思決定者が強権的になる

フラットな組織というのは、意思決定者と従業員の間の階層構造を出来る限り無くす組織です。

そのため、意思決定者と同等の権力を持つ人間というのがかなり限定される組織構造です。

言い換えると「意思決定者以外に「偉い人」を作らない組織」です。


もちろん権力が集中していると意思決定のスピードも増すなど良い点もありますが、どうしても意思決定者のワンマン的な組織になります。


性善的な「ワンマン」であれば問題も無いのですが、意思決定者の暴走が起こった時に制御が難しいのがフラットな組織だと思います。


また、いくら良心的な「ワンマン」であっても、組織の人数が増えて従業員全般に対して目が届かなくなると、現状に則さない評価を意思決定者が独断で行ってしまう事になり、結果として暴走が起こりかつ制御が難しい状況になります。


意思決定者の暴走を防ぐためにも、ある程度階層的な「フラットではない組織」というのが望ましいケースというのもある。そう思います。


フラットな組織は意思決定が遅くなる

もちろん従業員が少ない場合は別でしょうが、人数が多くなればスケールが難しい構造ゆえに意思決定事項が非常に増え、多くを捌ききる事が難しくなるでしょう。


そのため、従業員としては提案した内容に対する意思決定が遅くなると感じる事が多くなります。
もしくは、その状態に嫌気がさした従業員達が、自分たちの意見を上に伝える事を諦めることも多くなります。


フラットな組織はモラルコントロールが難しくなる

もしくは、意思決定者が全てを見きれなくなるが故に、精細な吟味を行わずに安易に権限委譲を行う、というケースも増えます。

これ自体は従業員のモラルが保たれているのであれば悪いことでは無いと思いますが、目が届かないが故に好き勝手行う従業員を放置する事にもつながります。


最悪なケースでは「フラットな組織」は機会不平等で風通しの悪い組織になる

理由は上述の通りです。





個人的には、「フラットな組織」は少人数の組織では機能しますが、人数が増えることによりキシミが激しくなり、意思決定者が強権的になる性質と、目が届かなくなるが故のモラルハザードの発生、という課題を抱えると感じています。


個人的には、欲しいのは「フラットな機会」であり、「フラットな組織」ではありません。


逆説的に言うと、自分が組織のリーダーシップを取るような立ち位置に立ったときに、自分が強権的な権力を握りたいのなら「フラットな組織を作る」という選択をするのは、間違いありません。



採用面接などで「弊社はフラットな組織で・・・」という事をやたらと喧伝する会社や組織に大しては、一度懐疑的な目で見てみるぐらいがちょうどよいかも知れません。